ドメスティックバイオレンスを惹きつける恋愛独裁者

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

常に相手を支配したがる独裁者

「こんなに口うるさい人だとわかっていたら、結婚なんてしなかったわよ!」

結婚二年目になろうとする彼女は、このセリフを繰り返している。ため息まじり、愚痴まじり、心の中では後悔の念と夫に対する怒りの念、そして自分自身に対する怒りの念をためこみながら、唯一のはけ口として友人たちにこぼしているのである。

夫は何から何まで自分の思い通りにしなければ気のすまない人間だ。たとえば、ふとした時に、無言でテレビの上にそっと指を滑らせる。

指に少しでもほこりがついていれば、目をつり上げて(しかもどこかほくそ笑みながら)「何だこれは? お前、きちんと掃除しているのか?」と叱りつけられる。

会計士よろしく、月に一度、家計簿を綿密にチェックされる。冗談かと思うような理由で、「浪費」を指摘されることも多い。コンビニエンスストアで牛乳を買った(スーパーで買うよりも数十円高くなる) だけで、無駄遣いをしたとなじられるのだ。

これらを一例と掃除の仕方、料理の献立・作り方、食べ方、しゃべり方、友人とのつきあい……何から何まで細かく口出しされるのである。心の休まる暇がない。

初めはただ神経質なだけだと思っていたが、まったくそうではないことがすぐに判明した。なぜなら、「自分自身のことはすべて棚に上げている」からである。

自分では何もしない、何もできない、ただ文句を言っているだけ。「正しいのは自分、悪いのはお前」、ただそれが言いたいだけのようなのである。

彼女が何をしようが、何を言おうが、結局、何かしら難癖をつけてくるのだ。万が一それに口答えしようものなら、家中のものを破壊されるか(彼女には直接暴力をふるわないが、皿を手当たりしだいに割ったり、椅子やテーブルを手荒にひっくり返したりする)、口を一切つぐんで酒を飲み出し、彼女が謝るまで口をきかなくなるのである。

確かに結婚前にもそうした兆候はあった。「こうしたほうがいい、ああしたほうがいい」と頼みもしないのに口を出してきた。反対意見を出すと、気分を害するようだった。

人の気持ちを考えず、強引なところがあった。だが、それは「男らしさ」だと思っていた。やさしさ、そして私のことを大切に考えてくれているからだと思っていた。

夫は五つ年上だし、自分に比べれば、世間のことをよくわかっているのだと思っていた。自分はまったく勘違いしていた。

なんて自分は愚かだったんだろう、後悔ばかりが先に立つ。死ぬまでずっとこんな状態が? ……それを考えると絶望的になる。

子どもができれば、子どもにも同じように口やかましくするだろう。いっそのこと離婚でも……いや、そんな「大それたこと」ができないのは、自分が一番よくわかっている。

何をするにも彼の「許可」が必要だ

自分が上、あなたが下になって、あなたを常に支配・コントロールしていなければ気がすまないのが「独裁者」タイプである。

常に「正しいのは自分、間違っているのはお前」なので、何か問題が起これば、悪いのはすべてあなた。あなたはマリオネットの人形となって、独裁者の指の動きにいつも操られていなければならないのである。

この独裁者タイプには、「権力依存症(Power Addiction)」という言葉があてはめられることもある。

ヒトラーをはじめとする独裁者よろしく、底なしに権力を追い求め、他人を支配することに最大の快感を覚える。もしくは、他人を支配していないと、心の安定が保てないという言い方もできる。

一部の政治家や官僚、ワンマン主義的な経営者などを思い浮かべていただければわかりやすいだろう。そうした人々は「庶民」や「従業員」を支配することに喜びを覚える。

それと同じく、独裁者タイプは「恋人」や「配偶者」に権力や支配を及ぼすことに取り憑かれている。

独裁者タイプが権力を握るやり方には二通りがある。一つは「身体的暴力」、もう一つは「精神的暴力」である。

身体的暴力とは、文字通り、殴る、蹴る、凶器を使うといったことで身体的に苦痛を与えることだ。相手に対する支配権を握るための非常に原始的なやり方である。

暴力をふるわれるほうは、その恐ろしさから相手の言うことに黙って従わざるを得なくなる。「被虐待女性症候群」(battered woman syndrome) という言葉があるくらい、夫や恋人から身体的暴力を受けている女性は多い。

たとえば、兵庫県尼崎市の調査(平成二三年「男女共同参画社会をめざした市民意識調査」) によれば、約五人に一人の女性が、配偶者や恋人などから、身体的な暴力を受けた経験があるという。

イギリス(イングランドとウエールズ) においては、およそ三日に一回の割合で、女性が現在もしくは過去のパートナーによって殺害されているという報告もある。

実は、精神的な暴力も含めた意味でのドメスティック・バイオレンスについては、男性が被害者になることも多いのだが、深刻な身体的暴力に関しては、女性が被害者になる割合のほうが世界的に見ても圧倒的に多い。

精神的暴力とは、主に言葉や態度(無言のメッセージ) によって精神的に苦痛を与えることである。

身体的暴力をほのめかして相手を怖れおののかせる、「別れるぞ」「もう生活費は渡さないぞ」と不安感を与えるといった直接的なやり方もあれば、もっと間接的なやり方もある。

たとえば、「無価値化(invalidation)」と呼ばれるものである。「何だ、お前はそんなこともできないのか」「何だ、お前はそんなことも知らないのか」「そんなの、うまくいくわけがないだろ」「お前には無理だよ」「まったく、しょうがないやつだな」などの言葉により、何かにつけて相手の価値をおとしめる。

言葉による虐待ともいえよう。その虐待を受ける者は、「自分はダメな人間だ」「悪いのは全部自分だ」と無意識のうちに自己否定感を募らせていく。

独裁者タイプにとってはまさにそれこそが狙い目であり、相手に「自分はどうしようもない人間だから、誰かの支配を受けて当然だ」と思わせることで支配権を確立しようとするのである。

言葉に出さず、あえて「沈黙」という手段が採られることもある。相手が自分の言うことを聞かなかったり、気に入らないことをしたりすると、途端に押し黙るのである。

もちろん、怒り心頭という表情、もしくは冷酷無比といった表情を浮かべながらだ。「オレは怒っているんだぞ」との無言のメッセージである。

女性というのは、男性に比べると沈黙に慣れていない(電車やレストランの中など、街で男同士、女同士のグループを比べてみればすぐにわかる)。

よって、沈黙は特に女性に精神的ダメージを大きく与える手段になりうるのである。

いずれにせよ、独裁者タイプは何らかの武器を使って相手に対する権力や支配権を握り、それを行使せずにはいられない。

いつ何時であっても、どんな理由であろうとも、実際に相手が何をしようとも同じである。常に「オレがお前を支配する。お前は黙ってオレの言うことを聞け」なのである。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
error: Content is protected !!